2013年11月25日月曜日

うつ病の診断①

今回からうつ病の診断ということで、

まずは医療機関についてお話していきたいと思います。


うつ病は早期発見が重要なファクターになりますが、

「心の変調」に自分(または周囲)が気づいた場合でも、

どの医療機関を受診すれば良いのか分からず、

近所の内科などにかかることも少なくなく、症状を進行させてしまう場合があります。

うつ病を適切に診断・治療する診療科は精神科・神経科・心療内科です。

なお、神経内科は神経専門の診療科なのでうつ病は扱われません。

ただし、近年は「精神科」と聞いて抵抗感を持つ患者や家族も少なくなく、

そのため医院の屋号にこれらの診療科の名前を出さなかったり、

「メンタルクリニック」「こころクリニック」の名前を使う医院も多いようです。

各自治体の保健所や精神保健福祉センターでは、

無料かつ匿名で「心の変調」やメンタルヘルスの相談に応じ、

医療機関も紹介してもらえます。

学生の場合は、児童相談所やスクールカウンセラー、保健センターなどでも良いでしょう。

意外に思われるかもしれませんが、

保健所の業務の6割は精神保健に関するものになります。

うつ病を扱うほとんどのクリニックは予約制であるため、

初診の際は事前に電話またはwebサイトから予約を取っておくと良いでしょう。

ただし、近年のうつ病患者の急増により、

(クリニックの新規開設も増えているが)予約の日時が1ヶ月以上後になったり、

新規の患者を受け入れられないクリニックも増えてきているのが現状のようです。


次回も、うつ病の診断ということで臨床評価について解説していきたいと思います。


2013年11月19日火曜日

うつ病の原因⑤

今回は、うつ病を発症する残りの要因についてお話していきたいと思います。


薬物及びアルコールの使用

DSM-IVでは、その原因が「物質の直接的な精神的作用」に起因すると判断される場合は、

気分障害の診断を下すことはできないとされています。

大うつ病に似た症状が物質乱用や薬物有害反応によって起こされていると判断される場合、

それは"substance-induced mood disturbance"と定義されています。

アルコール依存症または過度のアルコール消費は、

大幅に大うつ病の発症リスクを増加させます。

また、逆にうつ病が原因となってアルコール依存症になる場合もあります。

ベンゾジアゼピンは不安障害や不眠症の人が服用する薬で、

アルコールと同様に、ベンゾジアゼピンはうつ病発症リスクを増加させます。

この種類の薬は不眠・不安・筋肉痙攣に広く使用されています。

このリスク増加はセロトニンとノルエピネフリンの減少など、

薬物の神経化学への効果が一因である可能性があります。

ベンゾジアゼピン系の慢性使用も抑うつを悪化させ、

うつ症状は長期離脱症候群の1つである可能性があります。

ただし、うつ病に伴う睡眠障害に処方される睡眠導入剤には、

ハルシオン、デパス、フルニトラゼパム、エリミン、ニトラゼパムなど

ベンゾジアゼピン系の薬が多い。

JCPTDでは、薬物治療急性期には抗うつ効果発現までの

ベンゾジアゼピン系薬物処方は有用であるが、

依存性のため長期投与は推奨されていません。

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のガイドラインでは、

うつ病性不眠治療について、抗うつ薬と睡眠薬の併用がQOLを改善するとした

ランダム化比較試験結果は複数存在するが、

睡眠薬治療で実際に自殺や再発を減少させるか否かを検証したランダム化比較試験は、

現在まで行われていないと述べています。

うつ病の不眠に対して睡眠導入剤は効果的です。

睡眠導入剤で不眠に対処することが

抗うつ薬の治療効果を高めることが知られています。

不眠症状を軽減することによって、

身体疾患症状(抑うつ気分、疲労感など)が緩和される効果も期待されています。


ライフイベント

閉経、財政難、仕事の問題、人間関係のトラブル、近親者との死別による分離等があります。


社会的要因

貧困と社会的孤立は、一般的に精神衛生上の問題のリスク増加と関連しています。

児童虐待(物理的、感情的、性的、またはネグレクト)も、

後年になってうつ病を発症するリスクの増加に関連付けられています。

成人では、ストレスの多い生活上の出来事が

強く大うつ病エピソードの発症に関連付けられています。

生活上のストレスがうつ病につながる可能性が増加したり、

社会的支援の欠如がうつ病につながる可能性があります。


次回からは、うつ病の診断について解説していきます。


2013年11月11日月曜日

うつ病の原因④

今回は、うつ病発症の心理学的仮説の一つである

病前性格論についてお話していきたいと思います。


心理学的成因仮説の代表は、病前性格論です。

うつ病にかかりやすい病前性格として、

主に、メランコリー親和型性格執着性格循環性格

日本では提唱されています(米英圏では強迫性)。

しかし、近年の日本ではうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、

下記の性格に該当しないディスチミア親和型と呼ばれる

一群の患者が増加しているとされています。

ディスチミア親和型はパーソナリティ障害ないし、

パーソナリティ障害傾向を持つ人々が多く、

自己愛的な問題を抱えるケースが報告されています。


• メランコリー親和型性格は1961年にテレンバッハが提唱したもので、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持つとされる。内因性うつ病はこの対応を指す。主として反復性のないうつ病を呈するとされる。ただし、テレンバッハの原著を照らし合わせた者の調べによると、日本語訳には訳語の作為的な変更が見られるとして、この通説を疑問視する向きもある。

• Bechら(1980)やCzernikら(1986)の研究では、単極性うつ病患者と双極性うつ病患者のメランコリー型性格得点に有意差は見られなかった。

• 最近のFurukawaら(1997)の研究では、内因性単極性うつ病患者のメランコリー型性格得点は、健常対照群よりもむしろ低かったと報告されている。

• 循環性格はエルンスト・クレッチマーが提唱したもので、社交的で親切、温厚だが、その反面優柔不断であるため、決断力が弱く、板挟み状態になりやすいという特徴を持つとされる。躁うつ病の病前性格の一つであるとされる。

• 執着性格は1941年に下田光造が提唱したもので、仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持つとされる。反復性うつ病ないし躁うつ病の病前性格の1つであるとされる。

• ディスチミア親和型は2005年に樽味伸が提唱したもので、メランコリー親和型と比してより若年層に見られるとされる。社会的役割への同一化よりも、自己自身への愛着が優先する。また成熟した役割意識から生まれる自責的感覚を持ちにくいとされる。ストレスに対しては他責的・他罰的に対処し、抱えきれない課題に対し、時には自傷や大量服薬を行う。幼い頃から競争原理が働いた社会で成長した世代が多く、現実で思い通りにならない事態に直面した時に個の尊厳は破れ、自己愛は先鋭化する。回避的な傾向が目立つとされる。


ディスチミア親和型うつ病の定義とメランコリー親和型うつ病の定義の対比



ディスチミア親和型
メランコリー親和型
年齢層
青年層
中高年層
関連する気質
スチューデント・アパシー
退却傾向と無気力
執着気質
メランコリー性格
病前性格
「自己自身(役割ぬき)への愛着
規範に対して『ストレス』であると抵抗する
秩序への否定的感情と万能感
もともと仕事熱心ではない
社会的役割・規範への愛着
規範に対して好意的で同一化
秩序を愛し、配慮的で几帳面
基本的に仕事熱心
症候学的特徴
不全感と倦怠
回避と他罰的感情(他者への非難)
衝動的な自傷、一方で「軽やかな」自殺企図
焦燥と抑制
疲弊と罪業感(申し訳なさの表明)
完遂しかねない「熟慮した」自殺企図
薬物への反応
多くは部分的効果に留まる(病み終えない)
多くは良好(病み終える)
認知と行動特性
どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明
疾病による行動変化が明らか
予後と環境変化
休養と服薬のみではしばしば慢性化する
置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある
休養と服薬で全般に軽快しやすい
場・環境の変化は両価的である(時に自責的となる)


次回も別の仮説について解説していきたいと思います。




2013年11月7日木曜日

うつ病の原因③

今回は、うつ病発症の生物学的仮説の一つである

脳の海馬領域における神経損傷仮説についてお話していきたいと思います。


うつ病の神経損傷仮説



近年MRIなどの画像診断の進歩に伴い、うつ病において、

脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられています。

そして、このような海馬の神経損傷には、

遺伝子レベルでの基礎が存在するとも言われています。


心的外傷体験が海馬神経損傷の原因となるという仮説



海馬の神経損傷は、幼少期の心的外傷体験を持つ症例に認められるとの研究結果から、

神経損傷が幼少期の体験によってもたらされ、

それがうつ病発病の基礎となっているとの仮説もあります。

コルチゾール(cortisol) は副腎皮質ホルモンであり、ストレスによっても分泌されます。

分泌される量によっては、血圧や血糖レベルを高め、

免疫機能の低下や不妊をもたらすこともあります。

また、このコルチゾールは、過剰なストレスにより多量に分泌された場合、

脳の海馬を萎縮させることが、

近年心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の脳のMRIなどを例として観察されています。

心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌により、

海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮します。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)・うつ病の患者には、その萎縮が確認されているようです。


次回も別の仮説について解説していきたいと思います。


2013年11月3日日曜日

うつ病の原因②

今回は、うつ病発症の生物学的仮説の一つである

モノアミン仮説についてお話していきたいと思います。


1956年、抗結核薬であるイプロニアジド、

統合失調症薬として開発中であったイミプラミンが、

KlineやKuhnにより抗うつ作用も有することが発見されました。

発見当初、作用機序は明らかにされておらず、

他の治療に使われる薬物の薬効が偶然発見されたものでした。

その後、イプロニアジドからモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用、

イミプラミンノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害作用があることが

発見されました。

さらにその後、これらの薬物に類似の作用機序を持つ薬物が多く開発され、

抗うつ作用を有することが臨床試験の結果明らかになりました。

従って、モノアミン仮説とは、大うつ病性障害などのうつ状態は、

モノアミン類、ノルアドレナリン、セロトニンなどの

神経伝達物質の低下によって起こるとした仮説になります。

しかし、脳内の病態が明らかにされていない以上、

逆の病態が大うつ病性障害の根本原因と結論付けることは出来ず、

あくまで仮説にとどまっています。

さらにこの仮説に対する反論としては、

シナプス間隙のノルアドレナリンやセロトニンの低下がうつ病の原因であるとすれば、

抗うつ薬は即効性があるはずなのですが、

うつの改善には最低2週間要することを考えると、

この意見は一理あると言えるかもしれません。


次回は別の仮説について解説していきたいと思います。