病前性格論についてお話していきたいと思います。
心理学的成因仮説の代表は、病前性格論です。
うつ病にかかりやすい病前性格として、
主に、メランコリー親和型性格、執着性格、循環性格が
日本では提唱されています(米英圏では強迫性)。
しかし、近年の日本ではうつ病概念の拡大や社会状況の変化に伴い、
下記の性格に該当しないディスチミア親和型と呼ばれる
一群の患者が増加しているとされています。
ディスチミア親和型はパーソナリティ障害ないし、
パーソナリティ障害傾向を持つ人々が多く、
自己愛的な問題を抱えるケースが報告されています。
• メランコリー親和型性格は1961年にテレンバッハが提唱したもので、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持つとされる。内因性うつ病はこの対応を指す。主として反復性のないうつ病を呈するとされる。ただし、テレンバッハの原著を照らし合わせた者の調べによると、日本語訳には訳語の作為的な変更が見られるとして、この通説を疑問視する向きもある。
• Bechら(1980)やCzernikら(1986)の研究では、単極性うつ病患者と双極性うつ病患者のメランコリー型性格得点に有意差は見られなかった。
• 最近のFurukawaら(1997)の研究では、内因性単極性うつ病患者のメランコリー型性格得点は、健常対照群よりもむしろ低かったと報告されている。
• 循環性格はエルンスト・クレッチマーが提唱したもので、社交的で親切、温厚だが、その反面優柔不断であるため、決断力が弱く、板挟み状態になりやすいという特徴を持つとされる。躁うつ病の病前性格の一つであるとされる。
• 執着性格は1941年に下田光造が提唱したもので、仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持つとされる。反復性うつ病ないし躁うつ病の病前性格の1つであるとされる。
• ディスチミア親和型は2005年に樽味伸が提唱したもので、メランコリー親和型と比してより若年層に見られるとされる。社会的役割への同一化よりも、自己自身への愛着が優先する。また成熟した役割意識から生まれる自責的感覚を持ちにくいとされる。ストレスに対しては他責的・他罰的に対処し、抱えきれない課題に対し、時には自傷や大量服薬を行う。幼い頃から競争原理が働いた社会で成長した世代が多く、現実で思い通りにならない事態に直面した時に個の尊厳は破れ、自己愛は先鋭化する。回避的な傾向が目立つとされる。
ディスチミア親和型うつ病の定義とメランコリー親和型うつ病の定義の対比
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ディスチミア親和型
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メランコリー親和型
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年齢層
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青年層
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中高年層
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関連する気質
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スチューデント・アパシー
退却傾向と無気力 |
執着気質
メランコリー性格 |
病前性格
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「自己自身(役割ぬき)への愛着
規範に対して『ストレス』であると抵抗する 秩序への否定的感情と万能感 もともと仕事熱心ではない |
社会的役割・規範への愛着
規範に対して好意的で同一化 秩序を愛し、配慮的で几帳面 基本的に仕事熱心 |
症候学的特徴
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不全感と倦怠
回避と他罰的感情(他者への非難) 衝動的な自傷、一方で「軽やかな」自殺企図 |
焦燥と抑制
疲弊と罪業感(申し訳なさの表明) 完遂しかねない「熟慮した」自殺企図 |
薬物への反応
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多くは部分的効果に留まる(病み終えない)
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多くは良好(病み終える)
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認知と行動特性
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どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明
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疾病による行動変化が明らか
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予後と環境変化
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休養と服薬のみではしばしば慢性化する
置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある |
休養と服薬で全般に軽快しやすい
場・環境の変化は両価的である(時に自責的となる) |
次回も別の仮説について解説していきたいと思います。
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